日本は世界第一級の地震国であり,私達が普段の生活で何気なく利用している公共インフラである道路,鉄道,上下水道などに様々な被害が繰り返し生じてきました.
一方で,1923年の関東地震をきっかけとして構造物を地震に対して安全であるように造る耐震設計が始まり,その後の度重なる被害地震を踏まえた対応を経て,大きく進歩してきました.
地震が発生することは人間の力では防げませんが,地震が起きても構造物が壊れないようにし,私達の生活を守ろうとするのが耐震設計の役割であると言えます.
当研究室では,数多くある身の回りの構造物のうち,特に,橋を対象として,その耐震設計法に関する研究を行っています.
耐震設計では,地震に対する構造物の揺れの大きさが,構造物が変形できる大きさよりも小さければ安全だと判定されます.
すなわち,地震の揺れを抑え,一方で,変形できる能力の高い部材の開発を行うといった両輪が必要不可欠となります.
また,近年,普及が進んできた地盤の揺れを構造物に伝えない免震設計や,地震の揺れをダンパー等で吸収して制御する制震設計においても,新たな課題が生じてきています.
そこで,数値解析や振動台実験等の実験により,橋の耐震設計法を中心として,耐震設計法や免震・制震設計法の高度化を図る研究を行っています.
振動台(テーブル)の上にRC橋脚の模型を載せて加振実験(振動台実験)を行うことで,地震時挙動を評価しています. |
橋脚の損傷を抑制する観点から,免震構造と非免震構造の違いを数値シミュレーションを用いて評価しています. |
コンクリート構造物の非破壊検査
道路や鉄道をはじめとして,我が国の社会インフラの多くは高度成長期に建設されており,これらが一斉に老朽化する時期を迎えています.限りある財源を有効に活用して,社会インフラの長寿命化を図ることが大きな社会的ニーズとなっています.構造物を末永く安全・快適に使用するためには,定期的に点検を行い,将来を見据えて対策 (ex. 補修・補強・建替え) を実施することが重要です.
当研究室では,コンクリート構造物の点検の高度化を目的として,加振器や超音波などを用いた非破壊検査法の開発と,構造物の健全性診断への応用を検討しています.構造物の固有振動数(共振周波数)は劣化・損傷によって低下する性質があり,特に,コンクリート内部のひび割れや鋼材腐食,鋼板や繊維シート補強あるいは厚い塗膜よってに表面が覆われた構造物,土中や水中にある構造物など,目視困難な構造物の点検に振動試験の活用が期待されます.本研究では,様々な構造形式の大型試験体を作製し,地震・塩害・凍害などを模擬した損傷を与えることによって,構造物の損傷状況と振動特性に関する実験データを収集・分析しています.
これらの基礎実験に加えて,数値シミュレーションによる構造物の安全性・快適性の再評価や,経年劣化が生じた実際の構造物の現場試験なども行っており,新規の非破壊試験法の開発から実用化に向けた応用研究まで,幅広い研究を展開しています.
載荷試験によって生じたコンクリート試験体のひび割れに対して,非破壊試験の適用性を検討しています. |
経年劣化が生じた実際の構造物を対象として,現場での実証試験を行い,提案技術の精度を確認しています. |
鋼コンクリート複合構造の点検と構造性能評価
コンクリート構造と鋼構造を組み合わせたハイブリッド構造を複合構造と呼びます.例えば,鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)構造やコンクリート充填鋼管(CFT)構造などはいずれも施工性に優れており,鋼とコンクリートが相互に拘束することによって高い耐荷力と変形性能を同時に可能とします.このため,急速施工が必要な場合や,高い耐震性能が要求される場合など,様々なニーズに対応して複合構造が活用されています.複合構造を合理的に活用するためには,その設計法や点検・維持管理手法の整備が必要です.しかし,鋼とコンクリートの組み合わせは無数に存在するため,これらの相互の拘束を考慮した性能設計は十分に整備されていません.また複合構造が劣化・損傷した場合には,鋼とコンクリートが相互に拘束する中でこれらの材料劣化を考慮する必要があるため,構造性能評価は格段に難しくなります.
当研究室では,これまで性能照査に基づく鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)構造の耐震設計法の体系化に取り組んできました.その実験および解析のノウハウを活かして,鋼コンクリート接合部(フーチング埋込部)が腐食欠損した鋼製柱の耐震性能評価や,地震を受けたSRC構造とCFT構造の点検方法を検討しています.これらの劣化や損傷は,コンクリートフーチング内部の鋼材腐食が目に見えない,あるいはCFT構造では鋼管内部のコンクリートの損傷状況が確認できないなど,複合構造特有の点検の難しさがあります.本研究は,このような複合構造における目視困難箇所の点検技術を開発し,鋼とコンクリートの材料劣化と拘束効果を考慮した構造性能評価に繋げていきます.
大型試験体を作製してコンクリート内部の鋼材腐食を促進させ,各種非破壊試験法の適用性を検討します. |
経年劣化が生じた実際の構造物を対象として,現場での実証試験を行い,提案技術の精度を確認しています. |